気持ちの流れるままに、物語を書いています。

水口宿 その2

彦兵衛は安い宿を取った。
ここである程度、商売をするつもりなのだ。

宿の飯はまずく、寝床も決して快適ではなかったが、
彦兵衛は気にしなかった。


翌日も、彦兵衛はいつものように、
子供達の相手をしていた。
今度は、紙芝居だ。

彦兵衛の紙芝居は、受けるときと受けないときがあるのだが、
この町では受けたようだった。

紙風船よりも受けが良く、昨日よりも人が多く集まった。


商売が上手くいきそうな気配を
彦兵衛は感じていた。

ここのところ、まずい飯ばかり食べていたが、
久しぶりにうまい酒が飲めるようになることを
彦兵衛は夢見ていた。

水口宿

東海道五十三次の50番目の宿場、
水口宿(みなくちじゅく)は、水口城の城下町の
東側にある宿場町である。

行商に来ていた彦兵衛は、
いつものように、紙風船をふくらませて、
そこに通りかかった子供達の似顔絵を書いて渡していた。

「おじちゃん、何してるの?」

「おじちゃんはねぇ、足を棒にして練り歩いて、
 体が不自由な人のために、
 薬を売り歩いているんだよ。」

「うちの母ちゃん、おなかが痛くて、
 もう3日も寝込んでるんだ。」

「そうかい。
 そいつは、大変だ。
 おじちゃんの持っている薬で凄く聞くのがあるよ。」

「本当!」

こんな感じで、子供相手に遊びながら、
薬の話をするのが日常だった。

日が暮れる時刻が近づいて、その子供が家に変える頃、
彦兵衛はその子に声をかけ、家に送っていってやった。

わりと綺麗な服を着ていた子供だったが、
やはり家は裕福そうな商家だった。
だが、家に着くと、母親は寝込んでいたようだった。

「この子を送ってくれたのですね。
 ありがとうございます。」

「いえいえ、それより大丈夫ですかい?」

「お気遣いなく。
 寝てれば直りますから。」

「こちらのお子さんから、
 もう、3日も寝込んでいると聞きましたぜ。」

彦兵衛は、母親に病状を聞き、
薬を手渡した。

「だまされたと思って、飲んでください。
 お代は結構でこざいます。」

「そんな。いいんですか。」

「はい。構いません。」

彦兵衛にとって、このときはタダでも、
この薬が効いて、評判が広まって、自分のところに
買いに来る人が増えてくれば、損はないのだ。