気持ちの流れるままに、物語を書いています。

転生船長 第38話 - 木村武志3

オレはどうも女の機嫌を損ねたらしい。
少し不機嫌な表情をして、こんなことを言われた。

「私幽霊じゃないですけど。」

「いや、そんなことは思ってないが」

「思ってたじゃないですか。
 なんですか、オレはどうやら何かに取り憑かれてしまったらしい、って。」

どうやら心が読めるらしい。

「それなりに読めますよ。」

なにこいつ怖い。

「怖がらなくても大丈夫ですよー」

「ちょっと待て。そもそもなんだ?
 命を助けた、というのは何のことなんだ?」

「車は完全に壊れているのに、あなたは全身無傷ですよね?」

「・・・・どうもそうらしいな。」

「なぜ?」

「なぜ、と言われても」

「私が治療したからです。」

「どうやって?」

「魔法で。」

女は車に手をかざす。
フロントガラスの破片がキラキラと光って集まり、フロントガラスがもとに戻る。

いや、待て。そもそもオレはなんで深夜にこんな山中で周囲が見えている?
明かりがある。どこに?
上?
見上げると、空中に光る玉が複数浮いていて、光源となって周囲を照らしている。

「現実感がないですか?」

「ああ、何か騙されているかのような気分でもあり、
 ただ、こういうのは嫌いじゃなくて、信じたい気持ちもある。」

「私、異世界から来たんですよ。
 魔法を使える世界からここにやって来たんです。」

「まじか・・・」

「そしてあなたが命の危機に瀕しているのを見つけて、
 助けた、というわけです。」

「まじか・・・」

キサラは、嘘は言っていない。
嘘を言ってはいないが、かなり意図的に制限した情報のみ与えた。

まるで今しがた異世界からやってきて、たまたま偶然命を助けた、かのように受け取られるように。

木村がオカルト好きで、ライトノベルをわりと読んでいて、
想像の世界では異世界転生というものに馴染みがあるということをキサラは把握しており、
そこに乗っかる形にしたのだった。