気持ちの流れるままに、物語を書いています。

水口宿 その4

綾宮正一郎は、水口宿に道場を構える剣豪だった。

門弟は100人余にもなり、
道場破りに来る剣客もいたが、
正一郎にかなうものはいなかった。

妻子がおり、子供は5人いたが、
その4男が原因不明の大病を患い、
何年も床に伏せている状態が続いていた。

何人もの医者や薬師を頼ったが、一切病状は治らず、
また、祟りの類のものも頼ったが、
まったく効果は現れなかった。

その折、最近評判の薬売りが現れた、
というのを聞いた正一郎は、
その薬売りのもとを訪ね、
一度、4男の様子を見に来てくれないか、
頼むことにした。

彦兵衛は、最初、この話を断ろうと思っていた。

これまでの医者や薬師が直せなかったものを、
自分ごときが、と思ったためだが、
正一郎から、ダメでも、見に来てくれるだけでも、
謝礼を弾むといわれては断る理由はなかったのだ。