気持ちの流れるままに、物語を書いています。

水口宿 その5

彦兵衛は正一郎の家に行き、
さっそく4男の病状を見ることにした。

4男の名は、幸四郎といった。

幸四郎は眠っており、見たところどこにも
病気らしいところはなかった。

「あの、お子さんの具合が悪いというのは?」

「ずっと寝たままなんだ。」

「へぇ。ずっとといいますと?」

「4年だな。」

「そりゃまた・・・・」

「口元に粥や水を流し込んでやるんだ。
 オレには出来ないが、女房が上手くてな。
 下の世話なんかも女房がやってる。」

「こんなの見たことありませんや。」

「祟りかなにかかと思ってな。
 水口神社に入って、神主さんにお払いもしてもらったんだがな。
 さっぱりだ。
 何かわからぬか?」

「そういわれましても。
 あ、そういえば、祟りといえば、思い当たる話があります。」

「なんじゃ?話してみよ。」

「いえね。信じてもらえぬかもしれませんが、
 わたし、妖怪、というのを見たことがあるんですよ。
 その妖怪がちょっかいを出した子供がいまして、
 その子供も、熱を出して寝込んでいましたな。」

「何!幸四郎と同じと!」

「いえいえ。その子は、寝込んではいましたが、
 意識はありまして。
 こちらのお子さんとは、また違う感じでした。」

「それで!その子供はどうなったのだ!」

「その妖怪は、村のあちらこちらに姿を現しては、
 いたずらをしておったんですが、
 その噂を聞いた、あるお侍様がその妖怪を成敗なさったのです。
 それ以来、その子供も元気になりまして。」

「その方は妖怪退治が出来るのか!」

「何やら修行の身で、各地を回っておられるようでしたが。」

「名はなんと?」

「右衛門、とだけ名乗っておられました。」

「その方は、今、どこにおられるのだ!」

「いや、かなり前の話でしたし、今はどこにおられるやら。」