気持ちの流れるままに、物語を書いています。

第5話「ひとめぼれ」

港街バザーレには、異国からの貿易船が毎日多数来航する。

船からは多数の積荷と、多数の船員、商売人、旅行客、移民など、
様々なものがバザーレに流れ込んでくるが、
その中には、イレギュラーなものも混じってくる。

少年ジャンもそのイレギュラーなものの一つだった。
彼は、隣国ロザリオから来た、ある意味、移民だったが、
実態は、無銭乗船したただの密航者だった。

隣国ロザリオは貧しく、ジャンはそこでの生活に見切りをつけ、
村を飛び出し、船員の目を盗んで適当に船に乗り込み、
適当に積荷の食料をくすねて、空腹を紛らわしながら、
適当に船員の目を盗んで船を下りたのだ。
幸い、ロザリオとイザリアナ(港街バザーレを支配する国)では、
言語は同じだったので、以降、ジャンがそれで苦労をすることはないのだが。

ジャンには、お金も仕事も何も無かった。
ただ、夢だけはあった。
いつか、でっかいことを成し遂げて、ロザリオの連中を見返してやる、
とそんな無謀なことを思っていた。

でも、今は、お金も何も無いので、食っていくには、
そう、ころどろ、しかなかった。

手先が器用で、逃げ足には自信があったジャンは、
さっそくこの街でも、今日のねぐらと食料を確保しようと、
バザーレの市をうろちょろしていた。

そこで、ジャンは天使を見つけた。

「すっげー!なんだあの子!
 めちゃくちゃかわいい!
 あんなかわいい子見たことないぞ!」

ジャンが見つけたのは、買い物帰りのアリスだった。

アリスには全く自覚はないのだが、イアンやアベルが言うまでもなく、
彼女は飛びぬけて美人であり、
イアンがアリスを店の繁盛の売りの一つにしよう、
という作戦もあながち嘘ではなかったのだ。

だが、今回、それは完全に裏目に出た。

トンでもない疫病神にアリスは目をつけられることとなってしまったのだ。