気持ちの流れるままに、物語を書いています。

第6話「スリ」

ジャンは、アリスのことをつけていった。

まさに、ストーカーのようなものだったが、
ジャンにはアリスと仲良くなるために考えた作戦があった。
といっても、それで良い結果が出るとも思えない、
最悪の作戦なのだが。

アリスが市を抜けて、大通りの人ごみの中に入っていたのを見て、
ジャンは、細い路地を先回りして、大通りの向こう側に出た。

ちょうど、大通りの中央あたりですれ違えるように、歩調を合わせながら、
ジャンは、そ知らぬ顔で、アリスのほうに向かって歩いていった。

そして、わざとアリスにぶつかった。

「ふぅわぁああ!」

ジャンのほうが驚いたくらいの大声だったが、
作戦があるので、ジャンはそ知らぬ顔で、

「急いでいるので、すいません!」

と言って、足早にその場を去っていった。

アリスはしばらく、ポケ~、っとしていたが、
急いでいるのを思い出して、
ぶつかっていった少年のことを、頭から追い払って、
大通りを歩いていった。サイフがなくなっていることに気付かずに。

ジャンの作戦は幼稚なもので、
あとで、落ちてましたよ、と、サイフを届けに行って、
親切な紳士というイメージを持ってもらおう、
などという都合のいいことを考えたわけだ。