気持ちの流れるままに、物語を書いています。

水口宿 その6

佐竹右衛門は、とある道場の
末っ子、4男として誕生した。

剣の腕は、兄弟の中で一番だった。
12歳になるころには、7歳上の長男を負かしてしまい、
19歳になることには、道場主である父親にも勝つようになった。
ただ、素行が悪かったので、道場の跡継ぎとしては、
完全に外されていた。

しかも、右衛門は自分の家ではなく、
よその道場に習いに行く、というとんでもないことをしていたので、
佐竹家では、つまはじきにされていた。
実際には、習いにいっていたのではなく、
ただ、遊びに行っていただけなのだが。

あるとき、右衛門が遊びに行っている、
道場に道場破りが来て、試合の中で、
そこの師範を殺してしまった。

自慢げな道場破りに対して、道場に習いに来ていた人たちは、
意気消沈してしまったが、
右衛門は、その道場破りの腕前に対して、
衆目の面前で、罵倒し、こけ下ろした。

ここができてない、ここがダメ、
たまたま勝っただけ、弱い、
顔が悪い、足が短い、だのさんざん馬鹿にした。

その道場破りは怒り、
本来であれば、右衛門が敵討ちのため、果し合いを申し込むところが、
逆に、その道場破りから、右衛門が果し合いを申し込まれる、
という妙なことになった。

道場に習いに来ていた人たちは、
右衛門に敵討ちを期待した。

だが、その果し合いがさらにまずかった。

右衛門は、その道場破りとまともに戦わなかったのだ。

最初はお互い剣を抜いたが、
右衛門は剣を抜くと、いきなり、その道場破りめがけて
剣を投げつけ、ダッシュで逃げ出したのだ。

道場破りは怒り狂って右衛門を追いかけると、
右衛門は、岩陰から既に火がつけられている
火縄銃を取り出し、道場破りに向かって撃った。

火縄銃は、3つ用意してあり、
最初に撃った弾ははずれてしまうが、
びっくりして立ち止まってしまった道場破りに、
2発目、3発目と撃ち、2発目が腹に当たった。

腹を打たれてうずくまった道場破りに対して、
右衛門は、脇差で斬り掛かり、道場破りを殺した。

右衛門は「勝てばなんでもいい」という考え方だったが、
この勝ち方は周囲の反感をかうことにもなってしまった。

そして、ますます周囲から浮いた右衛門は、
父親から「しばらく諸国を回って(精神)修行してこい」と
路銀を渡されて、家を追い出されることになってしまう。

こうして、右衛門はぶらぶらと諸国を回る、
浪人になったのだ。