気持ちの流れるままに、物語を書いています。

水口宿 その8

正一郎は、彦兵衛から右衛門を紹介され、
大いに喜んだ。

「それで、どうやって妖怪を退治されるのですか?」

「いやね。前のときは、姿が見えていたので、
 いろいろとやりようはあったんですがね。
 今回も、それと同じならいいんですが、
 拙者も、姿が見えないことには、退治したくても、
 なかなか・・・・・。」

「姿が見えれば、なんとかしてもらえますかい?」

「斬れるものであれば、なんとか。」

「おい!お前!」

正一郎は、奥方を呼んだ。

「なんでございましょうか?」

「お前、以前、幸四郎が寝込んでいるとき、
 庭に得体のしれないようなものを見た、と申しておったよな。」

「ああ、見ました。恐ろしい姿でした。
 思い出したくもない。」

「その後、どうしたんだ?」

「私は大声で叫んだあと、その場にへたり込んで、
 もう、うごけなくなってしまいました。」

「お前じゃなくて、その妖怪の方だ。
 その後、その妖怪はどうしたんだ?」

「ええと、どうでしたかね。
 私の叫び声を聞いて、旦那さまが走ってこられる音を聞いて、
 逃げて行ったような気がします。」

「どちらへ?」

「ええと、わかりません。」

「もうよい、下がっておれ。」

「御新さん、少々よろしいですかな?」

「はい、なんでございましょう。」

「庭といいましたが、どのあたりでしょうか?」

「はい、こちらにございます。」

右衛門は、奥方に庭に案内された。

「たしか、この岩の右隣あたりだったと思います。」

「ふ~む。」

岩の右側にあった草花は、全部枯れていた。

「彦兵衛よ。これは、前見たときのと似てないか。」

「右衛門様が退治なさった妖怪がでたときも、
 こういう跡が多数ありやしたね。」

どうも、右衛門が以前退治した妖怪と似たタイプのようだった。