水口宿 その10
正一郎の家を出た後、右衛門は彦兵衛に話しかけた。
「おい、罠を張ろうぜ」
「罠といいますと、どのような」
「人間に取りつくのは夕方だけだ。
それ以外は動物に取りつく。動物を用意して、そいつに取りつかせた後、
ぶったぎりゃあいい」
「はあ、なるほど。野兎でも狩って、用意しておきますか?」
「夜がいいな」
「日中でもよいのではないのですか?」
「今のところ、この退治の仕方を知っているのは、
あんまりいねえ。飯のタネになるかもしれねえ。
広めたくはねえな。」
「へえ、そうですかい」
「何、他人事みたいにいってんだ。
おめえも一枚かむんだよ。」
「ええ~。おっかないですよ。
野兎をつかまえるくらいなら、あっしでもできやすが、
妖怪に取りつかせたり、ぶったぎったり、なんてのは、
旦那一人でお願いしますよ。」
「しようのないやつだな。」