気持ちの流れるままに、物語を書いています。

水口宿 その11

右衛門は正一郎の家の庭に檻を用意して、
彦兵衛が捕まえてきた野兎をそこに入れた。

夜になった。

運良くその夜は雲ひとつなく、満月が輝いていた。
月明かりに照らされてじっとしている兎を、
右衛門は障子の隙間から眺めていた。

ただ、じっと待つ。

もしかしたら今夜は来ないかもしれない。
もしかしたら兎ではなく人間にちょっかいをかけにくるかもしれない。
もしかしたら見逃すかもしれない。

何か兆候はないか。
何か見逃しはないか。
何か隙はないか。

右衛門はひたすらに機をうかがった。


ふと、兎がキョロキョロとしだした。
右衛門が身構えて、兎をじっと観察する。
兎が暴れ出す。
しばらくするとじっとうずくまって、ぶるぶると震える。
そして、動かなくなった。
兎は運良く檻の一番端。
檻を開けずとも外から一太刀、十分に届く絶好の位置。



音を立てずにすーっと障子を開ける。
兎までの距離。右衛門ならば5秒でたどり着ける。
刀を抜く。
目を閉じ、一呼吸。

右衛門刮目し、動き出す。
わらじを履かずに、そのまま駆ける。
うずくまっていた兎がピクリと動くが、
それ以上の動きを右衛門は許さない。

斬!

兎は胴体から真っ二つ。血が飛び出す。
それと同時に、白い煙が月明かりに照らされて、ぼやっと浮かび、
しばらくそこに止まったあと、風に消えた。






一人で頑張ってしまいがちな人